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グループ発表「日本の売買春――現状と対策(売春合法化の効果とは)」

200507

橋本努ゼミ

担当 西川、ゾウ、今泉、住田、太田、藤原

 

 

0―はじめに

1―売春肯定派と否定派 

 1a 「売春肯定派宣言」「キャサリン・マッキノン」

2―日本の現状と法律

 2a若者の性事情

 2b売春防止法

3―より良い売春制度とは

 3aゾーニング

 3bオランダの売春合法化

4―終わりに

 

0―はじめに

 日本のいわゆる性のみだれが嘆かれている。ここにも色々な意見があるだろうが、日本が先進国の中でも特殊であることは確かである。いわゆる、性全般に関して、みだらに犯してはならない領域という意識は高い。性が話題になるときは、冗談めかしている時か、よほど真面目に話している時のどちらかである。にもかかわらず、巷にはポルノ雑誌などによる性の情報が散乱している。他にも、AV、インターネットなど、今の子供たちは、いとも簡単にこれらを目にして性に関するあらゆる情報を手に入れることができる。そこには、公序良俗に反する歪んだ情報もあるだろう。また、日本の買春率も異常である。過去1年間に買春行動した日本人男性はずば抜けて高い。(日本13%、フランス1%、イギリス0.6%、オランダ2.8%、米国0.3%) その反面、日本人のセックス率は低く、「過去一年間に週二回以上セックスした人」だと、日本9.8%、フランス53%、イギリス28%、オランダ43%、米国39%という結果が出ている。

どうやら、日本人の意識として、普段の生活では、性への敷居が高いが、現実から逃避した世界(この場合は風俗)では、普段押さえつけている欲求を存分に満たしているようである。この現象はあまりよろしいものではないだろう。日本の性感染症、性の低年齢化にはやはり問題があるし、規範意識(女性をお金で買うという意識など)は、日本の海外での集団買春などに関して色々批判を浴びている。また、そこには劣悪な条件で働かせられている売春婦がいるかもしれない。どうやら、今一度、性の商品化の是非に関して考える必要がありそうである。また、さきほど少しふれた、日本の売買春の現状や、売春防止法に関しても検討してみる必要がある。

 

 

1―売春肯定派と否定派

 ここからは、性の商品化の中でも売春に的を絞って話しを進めよう。一般に売春が否定される理由は色々ある。それは、女性をお金で買うことが人権を犯していて、それによって女性は被害を受けている、という意見だ。また、例え自由意志で売春していたとしても、それによって、不特定多数者が抽象的な被害を受けている、と考える可能性がある。たとえば、たとえ当人たちの合意に基づく自発的な契約でも、「公序良俗」に反する場合には、そうなる。この場合、被害を被ったのは、誰と特定できない社会の全体、ないし、その社会の「公序良俗」を裏付けている人権システムである。では、売春肯定派の意見としてどういったものがあるか。こちらも人権を盾にすることになる。生きていく上で、売春せざるをえない人間もいるかもしれないし、売春を完全否定してしまっては、それが男女問わず自由を侵害している、と言えるかもしれない。また、障害者や普通の生活ではセックスできない状態にある人間にとっても、売春は必要とされているという意見もある。また、売春を非難する理由が、仮にそれによって、客に女性が契約以上の事をさせられ、傷ついたり病気になってしまったり、斡旋業者から不当に搾取されたり、といった事を理由にする場合があるが、それは売春自体を否定する、というよりは売春から派生する問題を非難しているに過ぎない。仮に、売春を完璧に安全に管理しさえできれば、そういった非難は無効になるはずである。また、お金をもらってサービスをする、という他のあらゆるサービス業となんら変らないではないか、という見方もある。

 

1−A 「売春肯定派宣言」「キャサリンマッキノン」

では、ハスラーアキラという実際売春夫である人の意見を見てみよう。有名な売春否定論者であるキャサリンマッキノンも合わせて紹介していく。

売春肯定派の意見

松沢呉一 スタジオ・ポット編『売春肯定派宣言 売る売らないはワタシが決める』より

・「これは僕だけに限ったことではないと確信しているのだが、僕は、自分でなりたいと思ってなり、明るく仕事をこなしている売春夫だ。客たちに最高に気持ちのよいセクシャルな時間を提供し、時にはセーファーセックスや、より良いエクスタシーの得方について教える『先生』になったり、セックスやセクシャリティをめぐる悩みに答えるカウンセラーになり、疲れた身体や心を癒すヒーラー足りえる自分の仕事を誇りに思っている。」(13

・「僕は、人が生活をしている中で、ふとハンバーガーを買いにいくように、売春者とのセックスを買いに出かけるという、人としての権利もあると思うのだ。人がセックスについて大いに語り、語りたくない人は、語らずにいても息苦しいなんてこともなく、ありとあらゆる『平和的な』セックスは、誰の気兼ねもなく行うことができ、みんなが満足し、癒され、セックスについての理論がどの新聞を読んでも交わされていて、どの小学校でも高度な性教育が行われる、そんな世の中は、きっとすばらしいものだろうと思う。」(14

・「金を出すことで買えるのは、それぞれの場のルールに従った『性的サービス』『性的快楽』であり、それに伴った人と人とのコミュニケーションでしかない。」(23

・「性産業は、金を出してルールを守れば、一定のサービスを確実に受けられるものであり、この不平等な社会において、珍しく平等思想を広げていると言える。

 

売春否定派の意見

C.Aマッキノン著『キャサリン・マッキノンと語る ポルノグラフィと売買春』より

・「セックスのために使用される人々のほとんどは女性です。セックスワークについて語る人々は、どうしてそうであるのかについて私たちに語ろうとしません。もしそれが単なる労働にすぎないのなら、そしてそれが自由の大いなる形態だと言うなら、どうしてほとんどの男性はそれをしないのでしょうか?」(49

・「売買春の中にいるほとんどの女性は、そこから出ることができるものなら出たいといっています。しかしそうすることができないという事実は、それが仕事ではなく、奴隷制の一形態であることを示しています。彼女らが選ぶことのできる他の選択肢が現実にないとすれば、売買春は選択ではないのです。」(52

・「同意という用語は、願望、選択、自由、したいこと、という言葉の同義語として使われています。実際には、レイプ禁止法の場合と同じく、それが本当に意味しているのは、自分では変えることのできない状況に対する受動的な受け入れであり、希望がないと思われる状況下での抵抗の放棄であり、絶望的な黙従なのです。セックスをしないと仕事を失うと思えば、女性は従わざるをえないのです。」(52

・「奴隷制が人種にもとづいている場合には、人は『それは単なる仕事だ』とは言いません。人種にもとづいている場合、他の選択肢がないために強制労働の状況から逃れられないときには、それは『奴隷制』と呼ばれます。(略)社会的に差別された集団の一員であることによって搾取されるのを強要されている場合には、それは奴隷制だということです。セックスワークが性的奴隷制の婉曲表現であるのは、『民族浄化』がジェノサイド[1]の婉曲表現であるのと同じです。」(53

・「他のすべての職業では、その仕事の第一の前提条件が子どもの頃の性的虐待であることはないし、女衒[2]に殴られることもないし、逃げ出さないように薬漬けにされることもありません。犯罪暦のせいでどこか別の場所に移動することが不可能になることもありませんし、結果として死亡率が通常の死亡率よりも40%も高いことはありませんし、PTSD[3]の割合がベトナム戦争の帰還兵よりも高いこともありません。」(5556

 

 以上、売春肯定派、否定派の意見を紹介してきたが、どうやらこれだけでは水掛け論のようである。性をお金で買うことを絶対的に拒否する人間は、どんなに論理的に売春の正当性を訴えても無駄であるし、あまり大声で売春の正当性を訴えるのも、何か道徳的に気が引ける。どちらが正しいとは一概には言えないようである。よって、ここからは、売春は必要悪という観点から話を進める。悪といったのは、人々の意識の中には、「やはり売春は良くない」という規範意識が少なからず必ずあるからである。必要悪というのは、つまり、どんなに厳しく禁止したとしても、売春は決してなくならないから必要悪なのである。それは歴史が証明していることである。その事をいったん認めたうえで、ではより良い売春制度などを考えていくほうが現実的ではないだろうか。

 

 

2 日本の現状と法律

 ここからは、日本の性規範、性産業をより良くしていくために、教育と法律の2点に的を絞って、特に後者に重点を置いて考えていく。

 

2−A 若者の性事情

性のみだれが嘆かれているが、実際の数字を挙げて検討してみよう。性体験のある高校生のうち、やく一割が性感染症(STD)の一種、性器クラミジア感染症に感染している。STDは、エイズウィルスの感染率を3〜5倍高めるとされるが、全国高等学校PTA連合会が実施した別の調査では、高校生の4分の1以下しかその認識がなかった。になみに、エイズ感染者、患者の合計は1万人を超えている。性行為の経験者は男子高校生が全体の31.1%、女子高生は43.6%。このうちクラミジアに感染していたのは、全体で10.6%に達した。欧米の女子高生の感染率は1〜4%で、日本は際立って高い。PTA連合会は、性感染症の予防対策のため高校生約一万人に実施した全国調査の結果をまとめた。集計、分析した結果木原雅子京大助教授は、「氾濫する性情報にせかされるようにして経験したため、後悔やとまどいつながっているのでは。身近な性感染症の危険を伝え、家族の役割や人間関係、心のケアも含めた予防対策が必要」と指摘している。小学生で性描写のある漫画や雑誌を見た生徒や、家族と会話のないと答えた女子は、性関係をもってもよいと思う割合が高かった。

これらの事を考えると、今の若者の性規範が低下している事は間違いない。それを正すためにも、教育でもっと正しい性の知識を身につけさせ、家族とも性に関して話し合いができるようにならなければ、歪んだ性の知識、規範は改善されないかもしれない。売春という職業を非難するつもりはないが、こういった性規範のみだれから、深く考えずに、抵抗感をあまり持たないまま売春婦になってしまうケースも多いはずである。だとしたら、売買春の是非を考える上でも、この教育が与える影響というものは大きいはずである。

 

 

2−B 売春防止法

 では、日本の法律(売春防止法)は買売春に対してどのような目的で、どのような罰則を設けているのだろうか。問題点なども探ってみよう。

【背景】

1958年(昭和32年)に初めて施行される。

・施行以前は赤線(売春営業許可地域)にて、営業がなされていた。従業婦たちはこの法律に反対の声を上げていた。

【目的】

・売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることをかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性交又は環境に照らして売春を行うおそれのある子女に対する補導処分及び保護更正の措置を講ずることによって、売春の防止を図ることを目的とする(売春防止法第1条)。

【内容】

・「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することと定義している(同法2条)。なお性交類似行為(フェラ、素股、アナルセックスなど)はこの法律では売春には当たらない。

・売春防止法では何人も、売春をし、又はその相手方となってはならないと規定している(同法3条)。

しかし、売春行為そのものを刑事処分の対象としているわけではない。

同法が刑事処分の対象としているのは、

  1. 売春勧誘(同法51号)
  2. 売春の周旋(同法61項)
  3. 売春をさせる契約(同法101項)
  4. 売春をさせる業(同法12条。俗にいう「管理売春」は、これに含まれる。)

などの売春を「助長」する行為である。

【罰則】

・一番重い刑・・・10年以下の懲役及び30万円以下の罰金。

人を自己の占有もしくは管理又は指定する場所に居住させ,売春をさせることを業とした者(同法第12条)。

・一番軽い刑・・・6月以下の懲役又は1万円以下の罰金

売春目的で公衆の目にふれるような方法で勧誘すること

売春目的で売春の勧誘するため,公共の場所で身辺に立ちふさがり,つきまとうこと

売春目的で公衆の目にふれるような方法で客待ちし,広告その他の類似方法で売春の誘引すること (同法第5条)。

【問題点】

・売春に非合法の烙印を押すことによって、売春婦の保護・更生を実現するどころか、逆にその立場を困難なものにしている。

・「売春が人の尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものである」と明言しているが、それは必ずしも明らかではない。また、仮に売春がそのようなものであったとしても、合法化されている性サーヴィス全般についてもそのようなものだといわざるを得ない。

・性交類似行為が合法で、売春が違法であるということ。実際に検挙する側の立場に立った時、性交類似行為と売春の二者のうちから、売春だけを区別して取り締まるというのはほとんど不可能に近く、検挙を困難にしている。

・「買春」については正面から禁止しておらず、「売春」のみが違法であるとの印象を与えかねない。この性別非対称の罰則規定は「両性の本質的平等」を定めた憲法14条に違反する。

・売春者、買春者が危険な状況に面しても、違法行為であるために警察を呼ぶことが難しくなってしまっている。警察を呼べない状況でのトラブル解決として、やくざが介入するようになってしまった。事実、施行以前の赤線地域には、やくざが介入することは無かった。

・日本人成年男子の買春経験者が世界的に見ても異常に多い、という状況を考えると、同法は有効性を持つとは言えない。さらに、誰もが違法行為を行っているという状況で、そのうちの誰を摘発するかというのは、警察の恣意になってしまう。その構図は公正な警察活動をスポイルし、警察の利権の温床へとつながりやすい。

・身体障害者などの性的弱者の持つ性行を行う権利を害している。

3 より良い売春制度を目指して

3−A ゾーニング

 売春をよりよい状態にするのに一つの方法として、ゾーニングというものがある。ゾーニングとは目的別地域区分のことである。ゾーニングは売春という有害環境の囲い込みをすることによって売春によって発生した悪影響をとりのぞくことができる。例えば、売春買春の低年齢化を防止して青少年を守り、売春婦の厚生の向上をもたらす。風俗産業のゾーニングの基本的なことはまず風俗産業・売春・買春行為を原則的に認め、条件つきで合法化することである。オランダでは風俗産業を合法化することによって不利益から社会を守ることができたが、逆に台湾やスウェーデンでは、風俗産業を適当に扱わなかったので売春は犯罪化し大きな社会的コストをもたらした。

 1998年に台湾の台北市で、当時の陳水篇市長によってそれまで合法だった「公娼制度」が急に廃止され、合法的に働いていた128名の公娼のライセンスが取り消された。当事者からの嘆願と激しい抗議にもかかわらず、転職のための二年間の猶予期間を設けるという法律が公布されたのは、一年半が経過した1999年1月のことである。それから2年が経ち、2001年3月ついに公娼制度は名実ともに廃止されることになった。公娼たちは抗議運動を行った。これによって、売春が犯罪化された地域ではセックスワーカーはSTD及びHIV感染、警察や客から搾取にさらされているのが現状である。同様に、法律の改正が、セックスワーカーの立場をより弱いところに追いやった、という例がスウェーデンである。スウェーデンは1999年にセックスワーカーの客になった人を取り締まる「売春者処罰規制」が作られた。そのため、セックスワーカー自体がアンダーグラウンドに潜んでしまい、労働状況が悪くなった。

 売春問題が社会問題になりつつ日本でも売春に対する取締りが行われている。日本はこれまで廃娼国であり、公式的に娼家を経営することが禁じられているが、売春禁止国と違って、売春という行為こそある程度認められてきたし、売春は完全に封じ込めることができないから曖昧にしてきた。風俗産業は2種類あって一つは店舗型営業で、もう一つは無店舗型営業である。今の日本では店舗型についてはある程度ゾーニングできている。例えば札幌のすすき野、東京の新宿などである。しかしもう一方無店舗経営のゾーニングこそが問題である。無店舗経営の内容といえば、派遣型性的サービス、ビデオの通信販売やインターネットの有害画像営業のことである。これらのものは抵抗のない青少年を歪んだ世界に誘い込むだけでなく、大人までも非現実的、想像の世界に連れ込んでしまう。この間の小林薫の症状に対する犯罪や少女監禁事件は無店舗型経営の危険を証明する例である。

 日本では1999年4月1日に「改正風俗適法」が実行された。この法はゾーニングをい基本としたもので、規制されるべき行為、性風俗を一定の空間に封じ込め、そこでのみ許容される規正法である。この「改正風俗適法」は主に無店舗風俗をゾーニングする法である。規制(ゾーニング)内容は@住所地を管轄公安委員へ届出A18歳未満を客とすることの禁止B一定地域でのビラ配布の禁止である。しかし、この法はテレフォンクラブや携帯での画像送信や掲示板の書き込みなどにはあまり効き目がないようである。なぜならこの法は憲法21条2項による「検閲」は行政機関による事前審査を主として想定している。または「電気通信法」との間に矛盾があるからである。

 これからの課題は司法当局が店舗経営のゾーニングに一段と力を入れて管理し、また無店舗経営の風俗産業については既成の個人のプライバシーを保護する法と調整が課題である。社会的な公序良俗を守り、売春という古くからあって一つの社会においてどうしてもなくすことができない現象を時代の変化に応じて柔軟かつ厳しい態度をとる必要がある。

 

3−B オランダの売春合法化

では、ここで、売春を実際に合法化している国の例を考えてみよう。 ドラッグ、同性愛、そして売春に関しても寛容な国、オランダを例にしてみることにする。オランダでは、売春を非犯罪化し、許可地域を設定するゾーニング方式や、娼館にライセンスを与える方式である。刑務所などでも、受刑者はパートナーと会って、セックスするための個室が利用できる。パートナーでなくても売春婦を呼ぶこともできる。 SAR(選択的な人間関係財団)」という団体が、一人では自分の性欲を処理できない障害者に、セックスや、場合によっては添い寝などの相手を有料で派遣している。 この団体は1980年代前半に障害者によって設立された。年間でのべ2000人が利用していて、外国からの利用者も増えてきている。 利用者の6割が知的障害者であり、残りが身体障害者。精神障害者の利用もあるが、数は少ないという。 男女比は9割が男性で、女性は1割にも満たない。 サービスの提供者は女性が13人で、男性は3人。レズビアン、ホモ用の介助者もいるという。  SARを利用する障害者に対して、36の自治体がセックスの助成金を出している。 助成金を出しているうちのドルトレヒト市役所の障害者福祉課では、助成金を受けているのは10年間でのべ5人。助成金を受けている人数が少ない理由として、助成金を受けられる条件が「収入がなく、セックスの相手がいないこと。さらに、自分でマスターベーションが出来ないこと」であり、これらを満たす人が少ないことである。

 ところで、オランダの合法化政策の基本的発想は、「売春は禁止にしても決してなくならない」という現実認識である。これは長い人類の歴史が証明している事実でもあるが、なくならないものであれば政府の目の届くところでコントロールしながらやらせておけばよいという発想である。禁止にすればすべてが地下に潜り、強制売春や金銭上のトラブル、エイズの蔓延等さまざまな問題を制御しにくくなるからだ。そこでオランダは一定の条件下ではあるが、売春を正式のビジネスとして認め、事業者には役所に届を出させて登録させ、税金を納めさせ、定期的に医療ケアも受けさせる仕組みを作ったのである。また最近では、アムステルダムに「売春奉仕短期大学」という売春婦の養成学校が開校された。ここでは売春ビジネスに関するあらゆるノウハウについての講義が行われ、健康管理や性病防止に関しても徹底した指導がなされている。この効果もあって、実際の数字は確認できなかったが、オランダではエイズ感染者が減少しているという。
 

4 終わりに

日本でも売春は合法化するべきである。その理由は色々ある。まず、しっかりと管理することによって性感染症が蔓延することを防げる。違法な状態ではできないことである。また、「雇い主」は「経営者」となるから、雇用条件に関して他業種と同様の制限を受けることになる。不法滞在者や未成年者などを雇うことは当然に禁止されるほか、売春宿では、従業員に対して、最低賃金の保証、健康保険などの福利厚生が義務づけられることになるし、納税の義務も生じるだろう。つまり、他のあらゆるサービス業となんら変わらなくなるということである。不合法では、例え売春婦が劣悪な条件で働かされようと、取り分を搾取されようと、売春を不法としている限り訴えることは難しい。また、例え訴えたとしても、人々の意識の中には自業自得である、というものがあるかもしれない。そもそもこの意識自体に問題があるという見方もある。日本は先進国の中でも、買春率が抜群に高い国である。にもかかわらず、日本には、売春を必要悪というよりも、単なる悪そのものと考える者が多いような気がしてならない。今の日本では、人前で自分を売春婦と明かす事は難しいであろう。それだけ売春婦が偏見の目にさらされているということでもある。売春を合法化すれば、他のサービス業とほとんど変わらなくなるであろう。これは売春婦の社会的地位を向上させ、偏見を少しづつなくしてく効果もあるだろう。売春を声を大にして正当化するつもりはない。しかし、売春という実際に存在するものを、見て見ぬふりをしているかぎりは、より良い制度は生まれないだろう。

 

 

参考文献

 

橋本秀雄「性を再考する 性の多様性概論」 青弓社 

ジャン=ガブリエル・マンシニ 「売春の社会学」 白水社 

江原由美子 「性の商品化−フェミニズムの主張」 頸草書房

江原由美子 「フェミニズムの主張」 頸草書房

要 友紀子 「売る売らないは私が決める−売春肯定派宣言」 ポット出版

杉田聡 「男権主義的セクシュアリティ−ポルノ」 青木書店

鈴木水南子 「買春と売春と性の教育 Human Sexuality トーク&トーク」 十月舎

黒沼 克史 「援助交際 」 文春文庫

キャサリンマッキノン 「キャサリンマッキノンと語る−ポルノグラフィと売買春」

                                 不磨書房

京都YWCAAPT 「人身売買と受入大国日本−その実態と法的課題」 明石書店

宮台真司 「世紀末の作法」 ダ・ヴィンチ

 

資料 警察庁 http://www.npa.go.jp/safetylife/seikan15/h16fuzokukeisatsu.pdf

   売春防止法 http://www.ron.gr.jp/law/law/baisyun.htm

 

 



[1] ジェノサイド 集団殺戮。

[2] 女衒(ぜげん) (「衒」は売る意)江戸時代に、女を遊女に売ることを業とした人。判人。

[3] PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder) 何らかの大きなショックや恐怖を受けた後に、何かのきっかけでそのときのフラッシュバックが起きたり、あるいは精神的・身体的なさまざまな不調や障害が起きたりする症状。戦争や交通事故や災害の際、あるいは暴力犯罪野生暴力や児童虐待などを受けたときにしばしば発生する。